1.
10日ほど前のことなのですが、大きなショッピングモールで買い物をしたあと、フードコートで昼食を食べることになりました。
休日なので、とても混んでいます。
高い天井の広い空間に、たくさんの人たちのおしゃべりや笑い声が、溶け合ったざわめきとなって満ちていて、そのざわめきをうっすらと覆うように、流行りの音楽が流れています。
私は、ファーストフード店のハンバーガーを食べていたのですが、そのとき、突如として、オニュの声が耳に飛び込んできました。
——ターゲットはOnly you イチかバチかどうする?
SHINeeの「Get the Treasure」が、店内のBGMとして流れ始めたのです。
うわ、と思いました。
こんなところで、いきなり? 何の心の準備もしてないよ、とも。
かじりかけのハンバーガーを、いったん、トレイの上に置いてしまうほど動揺したのですが、なんとか普通の顔を取り戻して、また、食事を再開させました。
「『美青年5人』で構成しなおした『オーシャンズ11』設定」の(初見のとき、そう思った)「Get the Treasure」のMVを、あの訃報の日以来、私は一度も見ていません。
あれほど繰り返し聴いていた「FIVE」や「1 of 1」も、実はほとんど聴けていません。
「1 of 1」は、大好きなアルバムでした。
1曲めの「Prism」が特に好きで好きでたまらず、聴くたびに、「なんて完璧な構成の曲だろう」と胸がどきどきしました。
5人の声を使って、ものすごく精巧に作られたパズルみたいな曲なのです。
全部のピースが「これしかない」というあざやかさで矢継ぎ早に決まっていって、強烈な疾走感が生み出されています。
あまりにも完成度が高いので、もうそのパーフェクトさだけで胸がしめつけられてしまうくらいの、そんな楽曲。
歌い出しはオニュです。
かろやかで、とても優しい彼の声が、すべりこむように、耳に、胸に、心にはいってくる。
オニュの歌声のもつ魅力が、もっとも発揮されている歌いかた。
その彼の歌声ではじまるこの曲を、そしてこのアルバムを、私は何度も何度もリピートして聴きました。
そういう「大好きな曲」を、私は、あの日以来、ほとんど聴けなくなってしまいました。
なぜって、聴くと泣いてしまうから。
泣くまでいかなくても、悲しくなったり、苦しくなったり、やりきれなくなったり。
心の中に重くて苦しくて、「つらい」としか言いようがない感情がこみあげてしまうから。
2
休日の昼下がり、フードコートのテーブルで、という「弛緩しきっている」シチュエイションで、とつぜん聞こえてきた、オニュの、テミンの、キーの、ミノの、そして、ジョンヒョンの歌声。
かじったハンバーガーを咀嚼していきながら、私は「ここでは普通の顔をしていなくちゃ」と自分に言い聞かせていたのですが。
——私、こんな状態で、東京ドームのSHINeeのコンサート、ちゃんと見ることができるのかなあ。
正直、不安な思いが胸にひろがっていきました。
*
昨年の12月5日づけの「オンユからファンの皆様へ」というメッセージが発表されてからの数日、いろんなところで、「もしかして、オニュ復帰?」という情報がめぐりはじめたのは、皆様のご記憶にもあることでしょう。
けれども、そういう情報を目にしても、「でも、まずは韓国の活動から再開させるはずだし」と私は思っていました。
だから、日本にいる私が、彼をステージで見るまでには、まだまだ時間がかかるんだろうなあ、と。
それから少しして、12月14日。オニュの誕生日。
その時点では、彼はまだ、(上にあげたメッセージのほかは)沈黙を保ったままでした。
「ああ、今日、オニュのお誕生日かー」と思ったあと、はあ、と私はため息をつきました。
満で言うなら彼は28歳。韓国での数え方で言うなら29歳、二十代最後の年齢にあたります。
——日本で、ステージの彼をもう一度見る前に、おそらく、オニュは兵役に行ってしまうんだろうなあ。
そう考えると、彼のバースデイだというのに、ため息が出てしまう。
そして、そんなふうにため息をついていたオニュのファンは、きっと私だけではなかったと思うのですが。
けれどもその翌日、つまり12月15日の午後のこと。
5人揃ったSHINeeが、日本で、再びコンサートをしてくれることが発表されました。
2月17日・18日の京セラ。2月26日・27日の東京ドーム。
日本の2大ドームで、2日間ずつ。
9月の「オニュのいない4人だけのドーム公演」を、もう一度、今度は「5人揃ったSHINeeで」やり直してくれるかのように。
3
——え? ほんとに?
ほんとに、5人で揃って、東京ドームに帰ってきてくれるの?
そのニュースで、私とQは、「大興奮+デレデレ」になってしまい、すぐさまFCの先行予約でチケットを申し込みました。
実はその直前の、京セラのEXOくんたちの公演にも行く予定だったので、大阪ー千歳の飛行機をすでにとってしまっていたのですが、それをキャンセルして、東京ドームでSHINeeを見たあと、羽田から北海道へ戻るというふうに計画を変更しました。
フライトのキャンセル料は6千円くらい。
でも、「オニュの歌声のためなら」「5人揃ったステージのためなら」、払い流してしまっても全く惜しくない、と思いました。
だって、ここでオニュの歌を聴いておかないと、彼は兵役の期間に突入してしまう。
そのあとには、ジョンヒョンが、そして次にはミンキーの二人が、と考えると、「5人揃ったステージ」は、おそらく、これを最後にして、そのあと数年は見られなくなってしまう。
それに。
私はキーの約束にこたえたかったのです。
何よりも。どうしても。
9月2日、例のオニュの一件で、4人だけになってしまった東京ドーム公演の終盤ちかく、キーは、ファンである私たちに約束をしてくれました。
「必ず、完全な5人で、また(東京ドームに)戻ってきたいです」
あの言葉を言うとき、すこしだけ涙ぐんでしまった彼のことを、私はその後、何度も何度も思い返しました。
私はオニュペンなのですが、FCの先行予約でチケットを申し込んだとき、一番、胸の中にあったのは、あのキーの約束と涙でした。
*
悲しい訃報のあと、4人が、日本での公演を実施してくれることが発表されたのは、皆さまもご存知のとおり、年が明けて1月9日のことです。
4人のメッセージ(ほんとうに、彼ららしい、いい言葉でした)を読んで、私は、東京ドームに行くことを決心しました。
ミノの、キーの、テミンの、それからオニュの熱くて真摯な気持ち。
彼らの一生懸命さと、これまで積み上げてきてくれた大きな努力。
SHINeeという存在自体と、そのファンを大切に思ってくれる気持ち。
そういうものに、ありがとうを言いたくなったから。
でも、決心したあとも、その後も、何度も心が揺らぎました。
フライトや宿泊のアレンジをしたり、仕事のスケジュールを組み替えたりしながらも、やっぱり、東京ドームに行かないほうがいいのかも、と何回も迷いました。
だって、いまだに彼らの動画も見られないし、曲だって聞けないぐらいなのに。
昼下がりのフードコートで、予想外の「ターゲットはOnly You」を聴いただけで、めちゃくちゃ動揺しているぐらいなのに。
実際に4人しかいないステージを、私は、見ない方がいいんじゃないのかな。
4
少し前のことになりますが、キーくんから、ファンである私たちに向けて、メッセージが発信されましたよね。
(ファンの方が翻訳してくださったものを、勝手ながら引用させていただきます。ありがとうございます)
「早いといえばあまりに早い時間ではありますが、気持ちを落ち着かせて早めに日常に戻ろうと思います」
「僕らのメンバーたちも再び立ち上がろうとしていますし、もちろんジョンヒョニヒョンのことが、僕らが崩れてしまうきっかけだと考えることはできません」
「(ジョンヒョンに)今すぐ会うことができず悲しいですが、道の曲がり角を振り向けば、ヒョンが僕を待っているということを、僕はよくわかっているからです」
「どんな時よりも頑張り、ヒョンの空席を埋めるよりも、ヒョンのことを常に感じながら活動したいです」
(キーの実感がこめられた、とてもいい言葉だと思い、読んでいて胸がふるえました)
「こんな僕からのお願いですが、いつどこでどんな姿で僕らに会うことになってもいつも普段通りに接して愛してくださるとありがたいです」
「僕らのメンバーがより頑張ることができるように淡白な応援の気持ちを送ってくだされば、失望させません」
——「普段通りに接して、愛してくださるとありがたいです」。
それが、キーくんがファンに望んでいること、なのか。
「普段どおりで」いてほしい、と。
*
かっこいい彼らのことを、かっこいいと思い、かわいい彼らのことをかわいいなあ、と感じて。
素敵な歌声には、素敵だなあとうっとりし、超絶クールなダンスやパフォーマンスには、素直に感動するような。
そういう「普段どおりの」気持ちで、いてほしい、と。
——ねえ、そういうことだよね、キーくん?
キーよりも、ずっと年上の大人のくせに、私のほうは、東京ドームの公演まで、あと5日というこの時期になっても、まだ「行かないほうがいいのかな……」とぐずぐずと思い悩むような、情けない気持ちでいます。
でも、私は、この情けない気持ちを、そのまま持って、東京ドームに行こうと思います。
楽しいトークを「楽しい」と感じたなら、笑ってもいいんだし、「わきまえてますよ、お嬢さんがた」的な、ミンキーのいちゃこらがあったら、「やだもうー」とか言って喜んでもいい。
愛されテミンがかわいかったら、「かわいい!」って素直にキャーキャーしよう。
キーくんのそつない日本語と、ミノの脚の長さに感動したい。
オニュの歌声が素晴らしかったなら、素直にそう感じよう。
かっこいいパフォーマンスに魅了されたい。だって、みんなのキレッキレのダンスは無条件に格好いいもの。
そして、ジョンヒョンの不在が悲しくなって我慢できなくなったら。
泣いちゃってもいいや、と。
4人しかいないステージが、つらくなって、涙があふれたなら、わんわん泣いてもいいや、と。
ふつうに、素直に、正直な気持ちをもって、SHINeeに会いにいくことが、ファンとして、今の私ができることなんじゃないかな、と思っています。
それは私の気持ちであって、ファンの方それぞれに、それぞれの感じかたがあっていいと思うのだけれど。
ふだんどおりの気持ちで、東京ドームに行くこと。
キーがメッセージで伝えてくれたように。
私にとっては、それが、あの4人の真摯な気持ちに、こたえるということなのかな…と、そんなふうに、今は思っています。
(2018.02.21)
コメントをくださった方々へ。すみません、今、お返事する時間がないのですが、すごく嬉しく拝見しています。ありがとうございます。近いうちに返信しますので、しばしお待たせしてしまいます……ごめんなさい。
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