いろんなことがいっぺんに重なって、この8月はすごく忙しかった。
でもまあ、それは大人の生活にはよくあること。
ひとつひとつは、全然たいしたことじゃないんです、ほんと。
仕事のこと、家族のこと、自分自身のこと。
それが、ちょこっとタイミング的に、ごちゃごちゃっと「いっぺんに」来ちゃっただけ。
すこしだけ、いつもより多めにがんばれば、何てことない、乗り切れる。
いつもの朝より、すこしだけ早起き。
普段の日々より、ちょっとだけ多く持つ荷物。
でも、ぜんぜんへーき。
大丈夫、がんばっちゃうよ、私。
だって、9月最初の週末に、あの輝く5人のコンサートを見にいくんだもの。
ため息をついてしまいそうになると、胸のなかに、カレンダーを思い浮かべた。
9月2日と3日の欄に、ピンクのペンで「♪」のマークが書き込んである。
日本で一番大きな舞台、ものすごくたくさんの、彼らを待ちのぞむオーディエンス。
あの5人にとっても、きっと、すごく「大きな仕事」だろうなあと思う。
今ごろ5人とも、暑い韓国で、リハとかダンスとか歌の練習とか、一生懸命、がんばってるんだろうなあ。
そんなことを考えると、「私もがんばらなくちゃ」って思えた。
忙しくて暑かったこの8月、何度、そう心のなかでつぶやいて、笑顔と元気を取り戻しただろう。
東京に行くための飛行機、ホテル、もちろんすべて、チケット購入と同時にすぐに予約した。
お仕事先の相手に電話して、繰り上げてもらった予定、遅らせてもらったスケジュール。
私にとっては初めてのSHINeeのコンサートだった。
オニュが私を見てくれるわけじゃないけど、新しいスカートも買っちゃった。
結構、高くて、買うのに「えい」って思ったけど、でもいいの。
すごくきれいな色のスカートだったし、「これを着て、あのとき、オニュの歌声をドームで聴いたなあ」って、あとから何度も思うはずだから。
*
「Hello」のMVを見たのが、最初だった。
すっかりかっこよくなった今の5人から考えると、笑っちゃうくらい垢抜けていない、ほとんど少年みたいな年齢のSHINee。
それでも、数回見ただけで、ものすごく心に残る歌声の持ち主がいることに気がついた。
歌が異様にうまいのは、この黒い服を着た彼のほうだな。
だけどこっちの、にこにこしたときに、うんと目が細くなる彼のほうは。
歌声そのものが、いい。
ハイトーンで、清らかに澄んでいるのに、やわらかで。ふわりと優しくて。
歌声を支える歌唱力も高いけれど、それよりもこのひとの、声そのものが。
「きれいな声」? 「クリスタルヴォイス」?
──ちがうな。
そんなありきたりな表現じゃなくて、もっと……なんていうか。
特別な言葉で形容したくなるような、すごく魅力的な声だ。
つよく自己主張していないのに、耳にそっと届けられて。
そして、胸から消えなくなってしまうような、そんな声。
「ああ、その彼、オニュっていう名前だよ。『温かく流れる』って書いて『オンユ』」
「ふーん。芸名?」
「そう。『歌声と笑顔が優しいから』って、事務所がつけた名前なの」
*
そのメールがスマホに届いたのは、昨日の午後7時29分なのだけど、私は仕事中で、見ることができなかった。
仕事のあと、2つほど用事を終わらせて、メールに気づいたのは9時すこし前だった。
「反省する時間を持ちたいという本人の意思で」
「出演を見送らせていただくことになりました」
日本語の広報スタッフさんが、知恵を絞りに絞って言葉と表現を選び、細心の注意を払って書いたんだろうなあ、というメールだった。
8月半ばに、報道があったときから、かなり嫌な予感はしていたのだけど。
希望者には全額払い戻し、という措置は、コンサートの規模や動く金額の大きさを考えると、非常に誠意ある対応だと思う。
それでも。
*
「よくぞこれだけの男の子たちを、SMが見つけたなあ」と思うほど、すべてが揃った5人だった。
5人ともが傑出した魅力を持っているのに、その魅力の方向性が、5人とも、きれいに異なっているのだ。
5つの頂点を持つ、五芒星のように。それぞれの頂点にむかって、彼らはその個性を輝かせている。
そしてその五芒星は、一つの円のなかにきちんと収まるものでもある。
五芒星の5つの頂点から引かれた線は、同じ円の中心点から出発し、そしてそこへと帰着するから。
SHINeeって、そんなグループなんだと思う。
彼らの活動を見ているうちに、5人のことを、どんどん好きになった。
歌唱力とプロデュースのジョンヒョン、文句なしに格好いいミノ、とにかくすべてができちゃうキー、パフォーマンス力のテミン。
みんな愛すべきキャラクターの持ち主で、そのうえダンスも歌もパーフェクト。
歌って踊る5人を見ているだけで、とても幸せな気持ちになれた。
コンサートで、5人が一致団結して「グループの力」を見せてくれるのも、もちろん、すごく楽しみ。
だけど、最初に「あ、この歌声は」と思ったオニュが、一番すきなのは、ずっとずっと変わらなかった。
初めての彼らのコンサートで、一番楽しみにしていたのは、やっぱりオニュの歌声だった。
*
ショックだった。
悲しくて、たまらなかった。
「あの5人に会える」「オニュの歌声が聴ける」って思って、がんばってきた8月が、ひどく悲しい色彩で塗り替えられてしまった気がして。
12月がくると、5人のなかで最年長のオニュが、28歳になる。
来年の4月にはジョンヒョンが、その翌年にはミンキーの2人がその年齢になる。
5人揃ったコンサートを、日本で見ることができるのは、もう、かなり限られた機会しか残されていない。
だからこそ、私は「東京ドームの両日」のチケットを買ったのだけど。
同行者のQと電話をした。
東京に住む忙しい彼女のことを、なかなか電話でつかまえることはできなくて、話せたのは11時を回ってからだった。
Qと一時間くらいかけて話しあい、私自身も考えた末に、9月3日の分のチケットを、払い戻してもらうことに決めた。
「お金なんて、返してくれなくていい」
電話で話したQが口にした一言が、耳に残って離れなかった。
「むしろ、あのオニュを返してほしい」
子どもっぽい言い草だとは思う。
でも。
*
スマホ上で払い戻しの手続きをしたのだけど、いくつか所定の操作をして、最後の送信ボタンを押すときに、迷って迷って押せなくなって、「やっぱり両日とも行こうかな」とも思ったりした。
1時間ちかく無駄に逡巡したあげくに、送信ボタンを押したときには、指が痛かった。
そして、ほんとうにいい大人のくせして、バカみたいなんだけど。
ちょっとだけ、泣いてしまった。
(2017.08.29)
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(この記事は「SHINee」[2]の記事です。)
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