★『セフナの青春日記』(全12話)のうち、第5話めです。
セフンが22歳の誕生日を迎える頃、という設定のファンフィク。歌が上手くなりたいと決心した彼が、EXOのヒョンたちと対話を重ねていきます。
▼第1話はこちらです♪
「──胸の中のコンパス? 音楽の?」
「はい」
「ベクが? そんなもん、持ってるって?」
「ええ。そういうのが、ソルフェージュの聴音を繰り返していくなかで、作られていったって」
「へええー。哲学的」
──「哲学的」を、「てっつがくてきいー」と発音して、ハンドルを握るチャニョルは、かははは、と笑った。
雑誌の撮影のあと、たまたまセフンとチャニョルの2人だけが、その後の予定がなかったので「メシでも食ってこーぜ」とチャニョルに誘われた。
気の置けないこのひとと一緒にいるのは、いつも楽しいことなので、二つ返事で承諾したけれど、一つだけ、やだな、と思ったことがある。
背の高い彼と自分がふたり連れ立っていると、それだけで無駄に目立つのだ。
目立ちかたというのは、足し算ではなく累乗的に増加してしまうようで、チャニョルと一緒に街中を出歩くと、かなりの確率でちょっとした騒ぎを引き起こす。それがどうにも面倒だ。
じゃあ、まあ、どっか適当な店でも探して、という流れになったときに、チャニョルのほうも、「こいつと2人で歩くと、目立ってしょうがない」ということに思い当たったらしい。
「今日さ、俺、車で来てっから。セフン、乗ってけよ」
先輩の彼がそう言うので、じゃあ、そうさせてください、ということになり、そこまではよかったのだが。
問題は、春先の夕暮れの街の道路が、予想以上に混んでいたことである。
週末でもないのに、チャニョルの運転する車は、あっさりと渋滞にまきこまれた。
あと30分でも車に乗り込むのが、早いか遅いかすれば、話は違っていたと思うのだが。
「あー、ハラへってきたなー」
動かない車の列に業を煮やしたらしく、運転席のチャニョルは、とうとうハンドルから手を離して、頭の後ろで組むと大きく伸びをしたりしている。
けれども、セフンにとっては、この渋滞は、先輩のチャニョルと「サシ」で話ができるチャンスかもしれなかった。
なぜなら、テレビ局の楽屋で、オレンジ色のパーカーを着たベッキョンと、ソルフェージュの話をしたときに、リードヴォーカルの彼から、2つの大きな助言を貰っていたからである。
そしてその一つが、チャニョルとスホに、アドバイスを請うといい、ということだった。
「チャニョルとジュンミョニヒョンの2人ね。……俺がこういう言い方すっと、また、上から目線に聞こえるかもしんないけど」
ベッキョンはそう前置きしてから言葉をはじめた。
「あのふたり、デビュー以降のここ1年くらいで、急激に、歌がうまくなってるだろ。特にチャニョル。あいつ、すごく戦略的に歌うようになった。表現力も、飛躍的にあがってるし。俺、聴いてて、え、マジかよ、こいつ、こんなふうに歌えるのかよって思うこと、何回もあるもん」
デビューしたての頃なんて、あいつの歌って、「音程は、はずしてません」くらいのもんだったのにさ、と余計なひとことを言ってしまうのが、このひとの、若干、デリカシーのないところであるのだが。
「あれほど急激にうまくなったっていうことは、きっとチャニョルのなかで、何かつかんだものがあるからだと思う。それを聞いてみなよ。たぶん、大きなヒントになると思う。……あと、ジュンミョニヒョン。あのひとも、すっげー、うまくなったよなあ」
そう告げたあと、ふっとベッキョンは笑った。
「おまえが個人レッスンを受けることを、『メンバーに言わないでくれ』って言ってたってマネヒョンからきいたとき。
ちょっとショックだったみたいよ、あのひとは。
……俺はまあ、たぶん、俺が元凶なんだろーなって思ったけど、たぶんジュンミョニヒョンは、もっと、おまえに、このグループの力を信じてほしかったんじゃないの。
メンバーのなかに、感情的な不協和音があって、それでグループのパフォーマンスが下がるの、あのひと、ものすごく心配してるからさ」
ベッキョンがそう言ったとき、セフンは、あっと思わず声が出そうになった。
「他のメンバーに言わないでほしい」とセフンが頼んだときに、マネージャー氏のほうが浮かべていた渋面と、そのときの台詞を思い出したからだ。
(でも、そういうの、あんまり、いい考えではないな。メンバーの中の空気を悪くしかねない)
マネージャーがあのとき言いたかったのは、まさしく、このことなのだろうと思った。
歌のレッスンを受けることを、グループのみんなに知られたくないという思いは、セフンが、彼らを信じていないということに等しい。
責任感がつよく、常にグループのことを案じているリーダーのスホなら、セフンのその態度で、ショックを受けて落ち込んでいた、というのも十二分に理解できる。
「あ……謝らないと、俺。ジュンミョニヒョンに」
自責の念につよくかられたセフンがそういうと、「いや、謝るようなもんでもないけど」と、ベッキョンは笑みを作って否定した。
「けど、あのヒョンには、何か言っておいてあげなよ。そうしないと、胃が痛そうな顔、してたから」
冗談みたいなそんな一言のあとに、ベッキョンは、2つ目のアドバイスをくれた。
セフンにとっては、すごく意外な助言だった。
ベッキョンは、とあるメンバーの名前をあげた。
そして、「あいつには、絶対、歌に関するアドバイスを聞きに行くな」と言いきったのだ。
(このページは、『セフナの青春日記』5「正しい道」(前)です。)
★次のお話『セフナの青春日記』6「正しい道」(後)は、こちらです!
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(画像はお借りしています。ありがとうございます!)
(このお話、書いたのは約2年前くらいなんですが、「ベク熱」ピーク時で書いているので、文章のそこかしこに、無駄にあふれる自分の「ベク熱」を感じて、今、無駄に赤面しています・苦笑)