★『セフナの青春日記』(全12話)のうち、第9話めのページです。
セフンが22歳の誕生日を迎える頃、という設定のファンフィク。歌が上手くなりたいと決心した彼が、EXOのヒョンたちと対話を重ねていきます。
▼第1話はこちらです♪
「えー。……どうしてですか? ベッキョニヒョンは、あのひとと、仲でも悪いんですか?」
テレビ局の楽屋で、明るいオレンジ色のパーカーを着たベッキョンに、思わずセフンがそう尋ねかえしたのは、彼のアドバイスがとても意外だったからだ。
──あいつには、絶対に、歌に関するアドバイスを聞きに行くな。
キム・ジョンデが、そんなふうに、ベッキョンから名指しで言われてしまうような人物だとは、セフンには、とても理解できない。
「あ、ちがうちがう。ジョンデ自体はとってもいいヤツよ? 優しいし、おもしろいし、頭いいし、性格も文句なし。けどさー」
言葉を逆接で切って、ベッキョンは、彼らしからぬ浮かない顔をした。
「けどさー、あいつ、歌の話になると、なんかとつぜん、宇宙人みたいなこと、言い出すんだもん」
「宇宙人?」
よく、意味がわからない。
ジョンデは、セフンがこれまで見てきたかぎり、(むしろベッキョニヒョンなどより、よほど)きちんと常識を備えた人物だという印象がある。
「なんだっけな。……わりと前のレコーディングのときなんだけど、ここのフレーズ、1カ所だけなんだけど、どうやって歌いこんだらいいか、誰かにちらっと相談したいってときがあって。
そのとき、たまたま控え室にジョンデがいて、あー、こいつなら答えてくれそうって思って、楽譜を見せて、尋ねたの。……したら、恐ろしい答えが返ってきて」
──恐ろしい答え?
どういう意味だろう。
「ジョンデはしばらく考え込んだあと、『ベクは、歌うとき、何の感覚を使ってるの?』って、逆に、聞き返してきた。
俺、意味がわかんなくて。『どういうこと?』って尋ねたら、『歌うときに、聴覚以外に、なにか補助的に使ってる感覚があるでしょ? ベクは、どういう感覚を使ってるのかなって思って』って言われたわけ」
ベッキョンはそこまで言うと、嫌なものを食べたときのような顔をした。
──たとえば、貝を食べたら、その身に混じった砂を、じゃりっと噛んでしまった、みたいな。
「余計にわけがわからなくて、『聴覚以外に、何を使うんだよ』って聞き返したら、『ちなみに俺は、視覚を使ってることが多いけど』って言われて、こっちは、『ハア?』だよ。
……『楽譜をよく見ろってこと?』って、おそるおそる聞いたら、『え。俺が言ってんのは、この目のことじゃないよ』って、あいつ、こうやって、自分で自分の目を指さししてさ」
そう言いながら、ベッキョンは彼自身のふたつの目を、両手の人さし指で指し示すジェスチャーをしてみせた。
「この2つの目以外に、どんな目があるっつーの。もしかして、こいつには、3つめの目ん玉が、体のどっかについてんのかって、ぞーっとしてさ。……ジョンデのほうもしばらく、きょとんとしてたけど、『もしかしてベクは、他にどんな感覚も使わないで、聴覚だけで、歌ってるの?』って、逆に、驚愕の表情を浮かべてるし」
そこまで言ってベッキョンは、ほんとうに、不気味な何かを見てしまったような表情になった。
「レコーディングのときってさ。……こっちだって、ギリギリの、極限状態まで自分を追い込んで歌ってるわけじゃん。
それなのに、突然、異なる言語でキモイこと言われたら、俺だって、めちゃくちゃ混乱するもん。
萎縮して、かえってちゃんと歌えなくなる。──そしてそれは、ジョンデにとっても、同じことが起こると思うんだ」
だから、ジョンデと話すとき、俺たち、お互い、歌唱法の話題は封印してんの。
そうベッキョンが言ったとき、ちょうどスタッフから声がかかって、セフンとベッキョンの間の会話はそこで終わりになったのだけど。
「ジョンデは、歌のオーディションでここに入って、練習生の期間も、俺とかより、全然、短かかったじゃない」
ベッキョンとは真逆の、「ジョンデにアドバイスをもらうといい」という言葉。
セフンの当惑をよそに、水色のシャツの御曹司スタイルのスホは、そんなふうに話をはじめた。
「だから、デビューしたての頃って、あいつは、周囲に対して遠慮とかも大きかったと思うんだよね。
基本、優しくていいやつなだけに、無理してみんなにあわせようとしてるんじゃないかと思えて、すこし、心配だった。
それと、Kのほうと仲良くしすぎてしまうと、ただでさえ言葉のギャップがあるMのメンツと仲良くなれないって考えてたらしくて、どっちかっていうと、俺とかから距離を置いて、向こうのメンバーとできるだけ一緒にいようとしてたみたいでさ。
だから、ジョンデのことは何となく心配だけど、どうにもできない、みたいな時期が、わりと、あったの」
はじめて耳にする、リーダーのその当時の心境だった。
このひとは、やはり自分などとはまったく違うレベルで、このグループ全体のことに心を砕いている。
セフン自身は、といえば、あの当時は、とにかく目の前にあることをこなすだけで精いっぱいの日々だった。
他のメンバーのことまで、気持ちを回す余裕なんて、ほとんどなかったほどなのに。
「そんなころに、めちゃくちゃ思いつめた顔のジョンデに突然、『ちょっとヒョン、俺と一緒にきてください』って腕つかまれて」
「え? ……いったいどうして」
「それで有無を言わさず、レコーディングスタジオのトイレに連れていかれて」
「──トイレ、ですか?」
どういう場所の選択だ、それ。
「あー……なんだろうね、そこしか思いつかなかったってだけじゃない? 俺とふたりになれるところ」
『ふたりになれるところ』って。
穏やかじゃないな。
「でも、あいつに連れていかれる間、こっちはドキドキだよ。いつもにこにこしてるジョンデが、血相を変えてるし、クリスをすっ飛ばして、俺に直接、訴えたくなることなんて、こりゃとんでもなくMでモメごとでもあったか、とか、いろいろ考えて」
それはそうかもしれない。
ジョンデはいつも、人好きのする、明るい笑みを浮かべている。ゆえに、その彼が「血相を変えてる」ようなところを想像するのさえ、難しいほどだ。
「それで、ひと気のない、トイレに連れていかれて、すっごい真剣な形相のあいつに言われたの。『ヒョンに生意気を言って、すみません。でも、どうしてもあなたに伝えなきゃいけないことがあって』って」
(このページは、『セフナの青春日記』9「神様からもらったもの」(前)です。)
★『セフナの青春日記』10「神様からもらったもの」(後)は、こちら!
▼…というわけで、「ベクが『こいつには、絶対に歌のアドバイスを聞きにいくな』と名指ししたメンバー」は、このひとでした♡
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