★『セフナの青春日記』(全12話)のうち、第7話めです。
セフンが22歳の誕生日を迎える頃、という設定のファンフィク。歌が上手くなりたいと決心した彼が、EXOのヒョンたちと対話を重ねていきます。
▼第1話はこちらです♪
「セフナ! セフナ! ちょっとちょっと、来て来て、こっち!」
仕事終わりに、控え室でリーダーの彼に呼ばれた。
何が嬉しいのかよくわからないが、満面の笑みを浮かべたスホが、ちょい、ちょいと手招きしている。
「あ、はい。今、行きますから」
自分のほうも、彼に謝らなければならないことがある。
私服に着替えたスホは、淡い水色のボタンダウンのシャツに、白いコットンのカーディガンをあわせている。
絵に描いたような「ハイソサエティな御曹司」みたいなコーディネート。
それがまた、(喋らなければ)端正な顔立ちに、たいへんよく似合うひとなのだ。
「明後日、セフナ、誕生日じゃないか」
くくく、と内側からこみ上げてくる嬉しさを抑えきれないみたいな笑顔で言われた。
このひとは、ときどきそういうところがある。
自分で思いついた冗談に、自分でウケて笑ってしまって、周囲を置いてけぼりにして、一人で笑い転げてしまうような。
「え? ……あ、そうですね」
素で忘れてた。
「当日に渡したかったけど、あさって、スケジュール的におまえと会えないからな。……はいこれ。ヒョンから、22歳になるセフナに、プレゼントだ!」
じゃーん、と、(リーダーの彼みずからによる声の)効果音つきで、白地にパステルカラーで花がプリントされた包装紙にくるまれた小さな箱を、実に嬉しそうな笑顔と一緒に手渡された。
「え? ……と、あの、ありがとうございます」
面食らったのと、一瞬、胸をかすめた不穏な予感で、礼を口にするのが遅れた。
慌てて、「嬉しそうな顔」を作る。
「不穏な予感」は、その包装紙のデザインが、「うーん?」と思ってしまうような感じだったから。
年配の女性が喜びそうな、というか──率直にいえば、「ださくね?」という感想を、抱いてしまったというか。
あけてみろ、あけてみろ、と、スホの満面の笑みの顔に、はっきりと書いてあるようだったので、セフンは、ぺりぺりと包装紙を剥がしていった。
これがまた、やたらテープを貼りつけてあって、なかなか剥がすことができないシロモノなのだが、スホが、心からの笑顔で注視しているので。
包装紙を剥がし、箱をあけると、そこから出てきたのは。
「……ヒョン、なんでしょうか、これ」
びっしりと錠剤の詰まったガラスの瓶。
そして、その錠剤の色が、草色というか、土色というか、なんとも言えない褐色なのであるが、それよりも、そのラベルに書かれた「どっさり出る!! スッキリする!!」と書かれたコピーを見て、なんというか、(控えめに言って)かなり脱力した。
「『青汁のモト』っていう健康食品。いやー、俺はこれ、毎日のんでるけど、とってもいいね。体調よくなった」
はあ……こういったものを、毎日、飲んでいらっしゃるのですか、リーダーは。
「これを飲んでれば、海外公演つづきでも、肌荒れ知らずだ!」
──うーん。……まあそうなのかもしれないですけど。
これが俺の22歳の誕プレなのか、と思ってしまうと、ヒョン、リアクション、しづらいです。
「セフナ。……嬉しくないのか? ミンソガはすごく喜んでくれたんだがなあ」
あのひとの誕生日プレゼントもコレだったのか。……
「すごく喜んでいた」ミンソギヒョンって、やっぱり、常に他人に配慮を忘れないひとだよなあ。
えらいと思う。
「え? いや、そんなことないです、嬉しいです、ありがとうございます。今、一日あたり、何粒飲むのかなって、ラベルを読んでいたんで……」
そう答えながら、目の前のリーダーの彼の顔を見ていたら。
セフンは、自分の顔が、自然とほころんで、笑顔になっていくのを感じた。
だって、これを贈ろうと考えてくれている間も、買ってくれたときも、いつ、渡したらいいのか、計画を練っていたときにも。
このひとは、こういう一点の曇りもない笑顔で、きっとセフンのことを、ずっと考えてくれていたはずだから。
「あー。1回10粒、1日3回ね。食前のほうが効果的らしいぜー」
善意のひと、なのだ。スホは。
ひとりひとりが、仲間意識を持って仕事にのぞめるよう、常に心を砕いてくれるところも。
グループ全体をどういうふうに牽引していけばいいのかを、強い責任感を持って、いつも考えていてくれるところも。
リーダーの彼の、大きくて強固な善意があるから、この個性とクセの強い面々が集まったEXOというグループも、走り続けていられる。
デビューしたてのころは、一番年下の自分に対して、このひとが、いつも特別な気配りを示してくれていたのを思い出す。
緊張しすぎて、怖くて、足がすくんだようになったとき、言葉がうまく出なくなったとき。
そういうとき、この年上の彼は、なぜか魔法のように自分のすぐ隣にいてくれて、きゅっと肩とか腕をつかんでくれた。
大丈夫だよ、と、言葉を使わずに伝えてくれるその力強さに、セフンはどれだけ救われてきただろう。
どれだけ勇気をもらってきただろう。
なのに、また、自分は。
このひとに心配させてしまった。
歌の個人レッスンのことを、メンバーのみんなに言わないでほしい、とマネージャー氏に子どもっぽく頼んだりしたせいで。
「あの……ジュンミョニヒョン」
「うん?」
「俺、あなたに謝らないといけないことがあって」
かいつまんで説明するつもりだったのに、それからセフンは、えんえんと話しつづけてしまった。
行きつ戻りつしがちなつたない話に、けれどもスホは、根気よく耳を傾けてくれた。
状況を整理するための短い問いや、的確な相槌をときどき差し挟みながら。
仕事のあとで、彼だって、きっと疲れていただろうに。
セフンを見つめてくれるまなざしには、ちゃんと強い明かりが灯りつづけたままだった。
セフンから見れば、完璧な歌い手に思えるジョンデが、ボイストレーニングを受けはじめたのを聞いて、自分も「こうしてはいられない」と思ったこと。
その彼に、「自己流だと、歌の上達には限界がありますか?」と尋ねたら、即座に「あるね」とつよく言い切られたこと、そのおかげで、特別な指導を受けなければ、と決心できたこと。
具体的な方策がわからなくて、ミンソクのところに相談に行った。
ボイトレじゃなくて、声楽指導系のレッスンがいいと思う、とアドバイスされた。
ずっと以前、読譜が苦手だったジュンミョンが、訓練して読譜の力をつけたら、それとリンクするように歌唱力が伸びたから、と。
「うわー、ミンソガ、そんな昔のこと、覚えてるんだ……」
スホの白い頰が、ふわん、と赤くなった。
テーブルについた肘を腕組みしながらセフンの話を聞いてくれていた彼が、ミンソクからのエピソードを話したとたんに、組んでいたその腕をほどいて、あわせた腕と腕のあいだに顔をうずめてしまった。
本気で照れているらしい。セフンの前にもかかわらず。
「つか、そんなことを、あのひとが、よく知ってるなー」
そのスホの声が、あまりにも強い驚きに裏打ちされているので。
「ミンソギヒョンが、そのことを知ってるって、そんなに意外なことですか?」
「意外だよー」
言い切られた。
「だって、その頃、俺まだ高校生……いや、ヘタしたら中学生だったか? 読譜の訓練してたのって、とにかくそのくらいの時期だし、他にもスタジオレッスンに来てた練習生って、いっぱいいたしさ。
俺はべつに、あの時期、あのひととそんなに仲良くしてたわけじゃないから。おたがい、顔と名前を知ってるって程度で、こんなふうに、同じグループでデビューして、一緒に仕事するようになるなんて、考えたこともない時期だもん」
あのひとは、見てるところは、しっかりと見て、そして記憶してるひとなんだよなあ。
感慨深げにそう言うと、スホは、またテーブルの上の腕を組み直して、「それで?」とセフンに話の続きをうながした。
(このページは、『セフナの青春日記』7「善意のひと」(前)です。)
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